ドリームライター愛(4)


 先に降りてきた男が、愛に目を留めて、後ろの頭目を仰ぎ
見た。
「このガキ、口枷を外してやがりましたぜ」
「ほう、なかなか元気だな…だが無駄だったな」
 頭目は顎をこすりながら愛の上に身を屈めてきた。手下
たちも、愛の周りを取り囲む。
「船はもう港を出ちまってるからな。泣いてもわめいても、
誰にも聞こえないぜ」
 愛は少しカチンと来て、
「だ、誰が泣くもんか!」
 と強がる。
「こいつ、本当に娘っこなんですかい?」
 無精髭の男が、疑わしそうに頭目に聞いた。
 確かに、この時代、愛のようなショートヘアの女の子は
珍しかった…というか、ほとんど居なかったらしいから、
無理も無い。それに今来ているのは、剣士…この時代では
当然男ばかり…の服装だった。
「嘘だと思うなら確かめてみな」
「なるほどね」
 頭目の答えに、その男がニヤニヤしながら、愛の股間に
手を延ばしてきた。
「な…」
 声を出そうとした途端、男の指がぐっと伸びてきて、
ズボンの上から愛の股間をモソモソとまさぐり始めた。
「なにすんの!」
 自分の顔が、火が出るくらいに熱くなるのが分かる。
手下の方は、目尻が下がるくらいニンマリ。
「ほう、本当ですねえ」
「お、俺も確かめる」「馬鹿野郎、俺が先だ!」
「やめてよエッチ!」
「やっぱりうるせいな、ほらよ」
「このドスケむぐっ!」
 愛の口に、柔らかい物が押し込まれた。湿って冷たい
…それは、さっき吐き出したばかりの布だった。一度
口から出して床に落ちたものを押し込まれるのも嫌
だったが、今はそれどころではない。盗賊たちが次々と、
愛の体に手を延ばしてくるのだ。
「お、確かにアレはねえな」
「だがオッパイはまだまだだな」
「むぐ〜っ!」
 いくらあがいても、縛られたままではどうする事も
出来ない。愛の目に悔し涙が浮かんだ。

「おい、その辺にしとけ。まずはお仕置きだ」
「「へい」」
 頭目の言葉で、男達はロープの束を引っ張り出して
きた。天井の梁にかけたロープが、愛の体に巻きつけ
られる。
 男達がロープを引っ張ると、愛の体は軽々と引き上げ
られる。
(痛っ!)
 体に縄が食い込み、うめき声を上げてしまう。だが
男たちがそれで手加減してくれるはずも無く、そのまま
足の先まで完全に浮いてしまった。
(く、苦しい…)
 愛は顔を歪めてもがくが、却って縄が体を締め上げて
くるだけだと気付いた。体に力を込め、食い入る縄に
抵抗するより他は無かった。

「さて、始めるか」
 周りを取り囲む男たちは、怖い薄ら笑いを浮かべて
いる。目の前に立つ頭目は、鞭を手に叩き付けながら、
距離を詰めてくる。その頭目が口を開く。
「お前みたいな子供が好きな金持ちは一杯居るからな。
せいぜい良い値で売り飛ばしてやるよ。だがその前に…
大人の仕事の邪魔をする悪い子供には、お仕置きをして
やらないとな」
 頭目の目に浮かぶ、冷たい悪意は、愛を心の底から
震え上がらせた。この人は、こんなことを今までもやって
きたんだ…子供を奴隷として売り飛ばすなんて、なんとも
思っていない、そんな人生を送ってきたんだ…と。
(なんで、こんなことになっちゃったのよ?!)
 愛は自分に問うたが、すぐに思い当たるのは一つだけ
だった。
(グリーのせいだ!)
 あの羽根の生えた黒蛇を、愛は心から恨んだ。

「さあ、歌とダンスの時間だ!」
 頭目が、鞭を握った手を素早く振るう。

バシッ!

 愛のお腹に、今まで感じたことの無い衝撃が走る。
肌に叩きつけられる痛みだけではない、体の内側まで
叩かれたような苦痛。
「あがっ!」
 愛が猿轡の下で悲鳴を上げると、男たちの歓声がその
後を追った。痛みと悔しさに、愛の瞼の裏に涙がこみ上げる。
「まだ、鳴き声のノリが悪いな!」
 二度、三度、四度、鞭が走る。打たれる度に、体が
ぐるぐると回転し、縄が体にきつく食い込む。

 鞭は、愛のお尻や、背中や、そして敏感な胸にまで
降り注いだ。
「むぐっ!ぐぐっ!ぐがっ!」
 猿轡を噛み締めても、悲鳴を止められない。
 もし今、頭目が鞭をとめて、「降参するか?」と
聞いてきたら、即座にうなずいてしまいそうだ。
(駄目!頑張らなくちゃ!ティリオと別れるのは嫌!
それに…こんな負け方はもっと嫌!)
 そう自分に言い聞かせるが、続く鞭の攻撃に、心が
砕けてくる。
「どうした?顔が真っ青だぞ」

 バシッ!ビシッ!

「むがっ!くぅっ!」
 一打ちごとに、肺から空気が搾り出され、縄が
さらにきつく体を締め上げる。ただでも猿轡のせいで
苦しいのに、さらに息苦しくなり、頭がガンガンして
きた。

 今まで、マンガやアニメで主人公が拷問にあう
シーンを見ていた時、なんとなく痛そうだと思って
いたが、現実…といっても、物語の世界中での現実
だが…は、想像を遥かに超えた苦しみだった。
(も、もう駄目!)
 愛は、首を振って男たちに降参しようと思った。

 だが、そんな愛に思わぬ助けが入った。甲板から
盗賊の一人が覗き込んで頭目に声を掛けたのだ。
「頭!霧が出てきましたぜ!」
「なに?そうか…仕方ねえ。お前ら、全員で見張りに
立つぞ!」
「「へい!」」
 頭目が鞭をベルトに差して階段を駆け上ると、 盗賊たちもその後を追った。船蔵には、ぶら下げ
られたまま苦しい息をつく愛が、一人で残された。

(た、助かった…)
 と、思わず心でつぶやいた愛だったが、もちろん
本当に助かった訳ではまだない。
 このままでは、ティリオと話をすることも出来ない
し、自分で再び猿轡を外す元気も無い。第一さっきは、
床に転がっていたから、猿轡を外せたのだ。こんな
風にぶら下げられていたら、同じ事は出来ない。
(…となると、まず縄を切らなくちゃ)
 愛は、ベルトに挟んだ小さなナイフを取り出そうと
して気付いた。
 手が届かない!


 
 

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