潜入(前)


 例えば。
 自分の1.5倍はある身長と、毛深くごつい体型。
 子供の頃は我々と似ていても、成長すると、滅び去った巨大類人
猿に近い姿になってしまう。
 そんなこの種族のオスを、それも暴力的に襲い掛かってくる者を、
耐えて受け入れる事が出来るだろうかと自問する。

 答えは一つしかない。

 出来る。
 やらねばならない事だから。
 そのために、この道を選んだのだから。

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 男はガレージの中に身を潜め、待ち構えていた。
 その整備工場は、先月潰れたばかりだった。
 戸には鍵がかかっていたが、トタン板の塀に囲まれた裏口の窓
ガラスを割って侵入した。幸い、警報システムにも入っていな
かったようで、何事も起きず、誰も来なかった。そのお陰で、彼は
じっくりと腰を据えて準備を整えることができた。
 夕日が差し込み、熱がこもるガレージで、額に浮かんだ汗を
ぬぐう。
(緊張しているな…いや、恐れているのか?)
 自分の心を分析することで、彼はその恐怖を乗り越えようと
する。
 彼が待つのは、不機嫌そうな一人の少女だった。そしてこれ
から、彼女をここに引きずり込み、犯すのだ。

 ある日、営業回り中に見かけた、その少女は、ランドセルを
背負ったその姿に似つかわしくない、しかし何か達観したような
その表情はひどく大人びて、一瞬だけ目があったときに男は確信
した。
 この子は、絶対に男を知っている、と。
 それ以来、この少女の事が気になり、近くを回った時に近所の
人に、それとなく話を聴くなどして情報を集めていった。
 そして確信する。やはり彼女は、売春を行っているのだと。
 彼の心に、強迫観念に似た使命感が沸きあがってきた。
(彼女を罰さなければならない)

 元から彼には、少女を愛する性癖があった。とはいっても空想の
中の事だ。
同年代の女性と交際することもあったし、実際に少女を買おうとか、
犯そうと思ったことは無い。
 今回も、彼女を犯したいのではない。罰を与えなければならない
のだ。彼女がこれ以上道を誤らないように。周りの男たちが道を
誤らないように。
 知ってしまった自分が、それをしなければならないのだ。
これは、正義だ。そう、自分に言い聞かせる。
 頭の隅でささやく、異論を唱える声を押さえつけ、自分を納得
させる。

 わずかに空けたトタン板の隙間から、彼女が角を曲がって現れる
のが見えた。
 部活にも入らず、すぐに帰宅するのは、やはり男に身を売るため
だろう。今日もこのまま行かせたら、また大人に媚びた顔を見せて
誘うのだ。
(やるしかない!)
 彼は腹をくくった。

 少女が前を通り過ぎようとした瞬間、男はドアを開けた。何度も
潤滑剤を差した蝶番は、無音で彼を通してくれる。後ろから彼女に
近づいて口を塞ぎ、体を掴んだ。
「むぐっ!」
 漏れる声を懸命に封じ込め、体を持ち上げてガレージに引きずり
込んでドアを蹴り閉じる。

 スポーツや格闘技を学んだことは無かったが、自分の体が予想
以上によく動き、少女の抵抗を排する事が出来ている。
 何度も何度も、頭の中でイメージしたのが良かったのだろう。

 やはり、子供は子供だ。大人の力には勝てないのだ。それを、
大人の欲望に付け込んで利益を得ようとするから、そしてその欲望の
ために子供を甘やかす大人がいるから、世の中がおかしくなるのだ。

 彼は腹の底に煮えたぎるような怒りを抱えながら、少女を押さえ
込んだ。
 用意した布を口に押し込み、言葉を封じる。恐怖のためか、少女
自身も抑えたうめき声のほか、助けを求める叫びをあげる様子は
ない。

 そうだ、大人は怖いのだ。お前の足元にひざまずいて金を捧げて
きたような、そんな情けない大人ばかりではないのだ。

 彼女を横倒しにベッドに押し付け、手すりに結んであったロープの
輪にその両手首を通すと、縄尻を引き、輪を締め上げる。結び目も
きつく締まり、少女が暴れてもそう簡単には緩まない。
 そのとき、長袖の下から少女らしからぬごつい腕時計が見えた。
彼の本能が、警告を発する。これは危険だ。何が仕込まれているか、
分からない。
 彼がそのベルトに手を掛けると、少女の抵抗が激しくなった。
(やはりな)
 自分の危惧が当たっていたことに満足し、彼女の手首からベルトを
外して、部屋の隅に投げ捨てる。
「さあ、これで何も出来ないだろう!」
 何かに促されるように、そんな言葉が口をついて出る。こんな
状況でも、その言葉にきっとにらみ返す少女の気丈さに、嗜虐心が
燃え上がった。

 そうだ、口も更にしっかり塞いでおこう。

 男は、用意していた布で少女の口布をしっかり押さえ込み、後頭
部で結んだ。口布で膨らんでいた頬が逆に引き絞られ、歪む。
「いい顔になったな。おっと、これも邪魔だな」
 男は少女が背負っていたランドセルのベルトも外し、ベッドから
投げ落とす。横向きになっていた彼女の体を仰向けに引き起こした。

 少女の顔と間近で向かい合う。長いまつげが、薄暗い中で金色に
光った。
 その光が目に入った瞬間、男の下半身から脳髄に向けて衝動の
電流がほとばしり、彼は猿轡で割られた桜色の唇にむしゃぶり
ついていた。
「むむ!」
 少女の眉根が嫌悪感に歪み、その口と鼻腔からくぐもったうめき
声が漏れる。

 嫌か。これまでさんざん男たちにこういう事をさせてきたのだろう
が。それとも、金さえ貰えば平気なのか?

 憎悪を募らせながら、彼女の服に手をかける。激しくなった
抵抗も、縄の束縛と彼の体重に封じ込まれ、その手を止める事は
できない。
 睨み付けるその眼差しに、彼は嗜虐の喜びを感じながら服を脱が
せ続けた。
 紫と白の縞柄のキャミソール、水色のデニムのミニスカート。
 その下には、子供らしい膨らみの胸には不釣り合いな大人びた
ブラジャー。それを剥ぎ取ると、桃色の乳首が露わとなる。
「意外にきれいだな。男達にさんざん舐められたり摘ままれたり
しているんだろうにな!」
 嘲笑しながら、その胸に唇を這わせる。
「ん…」
 少女がうめき声を押し殺し、顔を横に向ける。露わとなったその
うなじを、首筋を、彼は愉悦の声を上げながら舐め回す。
 少女の抵抗はいつしか弱く、頬には紅色が差してきていた。
(いかん、この子をイカせたい訳じゃないだろう!)
 男は本来の目的を思い起こした。ここは、彼女に心底大人の男を
嫌悪させなければならないのだ。
「さて、それでは引導を渡してやるか!」
 男は少女の足を広げ、立膝を押し入れて閉じられないようにする。
ズボンとパンツを慌ただしく引き下し、腰を入れて屹立を少女の
秘部に押し当てる。
「大人を、甘く見るなよ!」
 口に出すとともに、怒張を以って彼女の深部を押し開く。柔らかく、
熱い肉に締め付けられながら、奥へ奥へと突き進む。少女が眉根に
しわを寄せるのを見て、嗜虐性を煽り立てられて、溢れ出る衝動が
止まらなくなった。
 しかしその時、股間に電気のような刺激が走る。

(しまった!これは…)

 その意識が何かを思い起こす前に、刺激が脊髄を通り抜けて
脳髄に到った。
 意識が落ちるその瞬間に、彼の心に疑問が浮かんだ。

 これは…何だって言うのだ。俺は、何を思い浮かべようとして
いたのだ?



 
 

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